複雑ネットワーク理論を活用した独自技術で、ヒトとモノとの思いがけない出会いをプロデュースする
【サイジニア様インタビュー】


サイジニア様インタビュー

「デクワス」エンジンを利用したパーソナライズ・インターネットマーケティングサービスを展開する、サイジニア株式会社。独自の技術で開発した解析エンジンとその効果、今後の展望について、代表取締役の吉井 伸一郎様(以下、敬称略)にお話をうかがった。

研究一筋の研究者から、ITビジネスの世界へ

椎葉:吉井さんはこれまで大学や研究機関で、「複雑系」という分野の研究をされていたのですよね。アカデミックな世界からITビジネスの世界へ参入されたわけですが、そのきっかけを教えてください。

吉井:世の中のあらゆるエンジニアリングには土台に自然科学があって、サイエンス的なバックボーンを持っています。航空会社が飛ばす飛行機は航空力学がベースにあるし、製薬会社がつくる薬は、使用する成分が人体にどのような影響を与えるか化学的にわかったうえでつくっています。一方で、ITは少し違って、情報という人工的な体系の上に理論構築がされるため、一般的に情報科学は自然科学とは区別されます。

しかし、IT社会での現象を解析してみると、総体としては自然科学の世界で古くから知られている自己組織化パターンと類似する様相が観測されます。私はこれを見てインターネットは21世紀に登場した新しい“nature”であると捉えることができると考えていました。大学ではずっとそういった研究をしていました。

サイジニア株式会社 代表取締役 吉井 伸一郎様
サイジニア株式会社
代表取締役 吉井 伸一郎様

椎葉:そのような研究者だった吉井さんが、なぜ会社を設立しようと考えたのですか?

吉井:アカデミックな世界では、研究成果の発表というと論文発表という形式にならざるをえません。ですが、その形式ですと、執筆から発行されるまで2年程度はかかってしまい、進化の流れの速いITの世界には馴染まないと感じました。それよりもむしろ、ITサービスの提供者になって、リアルでの莫大なデータを用いて研究を検証し、さらに精度を向上させることにより、研究を実社会に役立てることができると考えました。

スケールフリー性をベースにしたエンジン「デクワス」

椎葉:現在展開されているのが「デクワス」サービスですね。どんなサービスがあるのでしょうか?

吉井:「デクワス」サービスには、大きく分けてアドサービスとレコメンデ―ションサービスがあります。アドサービスには、「デクワス.AD」と「デクワス.DSP」があり、ユーザーに最適化した広告を出すことで効果的な集客をするものです。レコメンデーションサービスは、「デクワス.RECO」と「デクワス.POD」があります。「デクワス.RECO」はサイトに来た方に対して適切な商品をおすすめしてサイトから立ち去ってしまう確率を下げ、逆にいろんな商品を見てもらうことでサイト内の回遊率を増やし、最終的に商品を購入してもらう機会を増やすことが目的です。「デクワス.POD」は実世界において商品をおすすめするサービスで、ECサイトで実際に商品を買った方にお渡しする明細書や納品書に、レコメンド商品を印刷するというものです。

椎葉:「デクワス」は、他のエンジンと具体的にはどこが違うのでしょうか?

吉井:「デクワス」は、スケールフリー性をベースにしています。同じお客様・条件で、「デクワス.RECO」と、一般的なレコメンデーションの仕組みである協調フィルタリングによる他社エンジンが比較されたことがあるのですが、他社エンジンでは商品人気ランクがトップ100の商品しかレコメンデーションされておらず、ロングテールの商品はほぼレコメンデーションされていません。トップセールスの商品にフォーカスすると、ロングテールのデータはノイズのように扱われてしまうわけです。一方「デクワス.RECO」は、トップセールスからロングテールまで全方位的にカバーできています。一般的な解析手法は、正規分布するデータに対しては有効なのですが、ネット上の商品購買パターンはスケールフリー性を備えた「ベキ分布」の形をしています。「デクワス」の解析技術は、スケールフリー性を前提とした複雑ネットワーク理論をベースにしているので、ネット上のビッグデータ解析に向いているというわけです。

既存のレコメンデーション技術と比べた特徴
既存のレコメンデーション技術と比べた特徴

吉井:また、自動学習機能も「デクワス」の特徴のひとつです。ユーザーに何かをレコメンデーションし、そのフィードバックをもとに自動学習させることによって、個別のお客様の嗜好に合わせて、おすすめすべき商品を自動的に学習し最適化していくという仕組みが備わっています。基本的にはデータがたまるほど、時間が経つほどに、精度が上がっていきます。

椎葉:他社で、「デクワス」のような考え方に基づいたエンジンを開発しているところはないのですか?

吉井:他にないということを証明するのは難しいですが、この解析技術は日本のみならずアメリカも含めて特許を6件とっているので、実用化は早かったと言えると思います。データサイズとしても、月間で3.5億人のユニークデータと400億インプレッションのデータを解析しています。

椎葉:十分なスケールですね。

思いがけないものに「出くわす」体験を提供する

吉井:現状、アドサービスではRTBという広告基盤の上で、1秒間に十数万回もの入札を行っています。「デクワス」の技術はリアルタイム処理にも向いているので、「ネットからリアルへ」というのが、今掲げている今後の主要テーマのひとつです。

椎葉:先ほど「デクワス.POD」は、リアル、すなわち実世界向けのサービスとおっしゃっていましたが、これはどんなサービスなのでしょうか?

吉井:ECサイトでは、購入した商品が届くときに、商品が入っている箱の中に購入明細書や納品書が同梱されていますよね。そこにパーソナライズ機能を付加するサービスです。明細書や納品書に、ユーザーひとりひとりに適切なレコメンド商品を印刷してお送りします。ご導入いただいたアパレル企業では、以前は5枚以上の広告を同梱していましたが、現在はこの1枚のみです。

「デクワス.POD」でパーソナライズした明細書
「デクワス.POD」でパーソナライズした明細書

椎葉:ユーザーに何が響くかわからないので、さまざまなタイプの広告を入れておく必要があったということですね。広告の数を減らすことでコストダウンにもなっていますね。効果はいかがでしたか?

吉井:「デクワス.POD」をご導入いただいた結果、導入前は20%だった30日以内の再購入率が2倍になりました。サイト全体の売上も15%アップ、という結果でした。どこの企業も、オンラインではすでにさまざまな施策を投じているので、そこから真水で15%もアップすることは難しいのですが、リアルの世界ではマーケティング技術が適用されていない領域がまだまだたくさんあり、伸びしろが大きいと感じています。

椎葉:確かに、とても高い効果が出ていますね。

吉井:商品同梱型のパーソナライズ明細書の効果が高い理由は3つあると思っています。1つ目はリーチが100%であること。購入した商品が届いたら、必ず箱を開けますよね。ですので、当然ながら必ずユーザーの目に触れます。2つ目は、購入したアイテムとの相性の良さがパッと見でわかるということ。今手にしたアイテムに関係するレコメンデーションなので、組み合わせイメージがすぐにわかります。3つ目は、リーチするタイミングがいいということです。既存のネット広告サービスだと、仕事中や勉強中など、そもそもユーザーが購入を検討するタイミングではないときにリーチしてしまうこともありました。しかし、商品が届いたときはどうでしょう? もっともワクワクしたタイミングにリーチできることが重要なポイントです。

椎葉:そもそも商品を購入した人に届いている時点で、ロイヤリティの高いセグメントにアプローチできていますしね。

吉井:はい。あと、デクワスエンジンは、アイテムの組み合わせをおすすめするのが得意という特長があります。協調フィルタリングですと、購入順序は勘案されず一緒に購入された商品同士の発生確率しか計算していないことが多く、例えばiPadのコネクタを買うと、iPad本体がおすすめされるということが起きてしまいます。本当は、iPadを持っているからコネクタを買うんですよね。「デクワス」のネットワーク理論は購入順序関係を評価できる有向グラフという形式を使って解析できるので、「シャツに合うネクタイ」というような商品の主従関係まで考慮できます。

椎葉:ユーザーが、次に欲しいと思うようなものをレコメンドしてくれるんですね。

スペースシップ代表 椎葉 宏
スペースシップ代表
椎葉 宏

吉井:私たちは、世界中の商品を全部見たうえで何を購入するか決めることはできませんが、目の前に並んでいる商品に対して、自分のコストを最小化しながら得られる効用・幸福を最大化しようとしますよね。人間は全知全能ではないけれども、限定合理的に行動できます。そういう行動パターンの解析を積み重ねていけば、もっぱら合理的な意思決定支援システムができるのでは、と思ったのがこの「デクワス」をつくった背景でもあります。見たら欲しいと思うけれど、知らなければ気づかないで終わってしまう出会い。そういうモノとの出会いを提供するのが「デクワス」です。

ネットとリアルの情報を統合して、より高精度なパーソナライズを

椎葉:「デクワス」シリーズは、まだまだこれから進化する予定ですか?

吉井:はい。これまで、私たちのデータソースはインターネット上のクリックという形式でした。しかし、今はスマートフォンの普及や決済の仕組みもどんどん変化していますし、街中にはサイネージ広告も増えてきました。今後はリアル世界も含む、多種多様な情報が取り扱うことができるようになりますので、これらのデータを統合する解析プラットフォームを構築したいと考えています。「ネットからリアルへ」がひとつの成長ストーリーだと申し上げましたが、ネットとリアルをまたいだパーソナライズサービスを実現する、というのが次の目標です。

椎葉:最近、オムニチャネルという言葉がよく使われるようになりましたが、そういったさまざまなチャネルをまたいだフローの構築というのは、企業サイドとしても重要テーマになってきています。御社としてもそこをサポートしていくということですね。

消費者行動からみる消費市場規模
消費者行動からみる消費市場規模

吉井:はい。ユーザーを中心にして、世界をパーソナライズしたいと考えています。EC市場自体も、その市場規模はこれからも大きくなると思います。一方、消費市場全体を俯瞰して見てみると、ネット完結のECだけではなくて、店頭で見てネットで買う「Offline-to-Online」や、その逆もあって、さまざまな接点から収集した情報を統合してパーソナライズすることが、今後ますます重要になってくると思っています。

椎葉:インターネットのおもしろさというのは、新たにインターネット業界が生まれただけでなく、他の業界すべてに非常に大きな影響を与えるクロスの動きがあるところだと思っています。一方で、本質的に人間というのはそう急には変わらないので、さまざまな業界を巻き込んで進化していくインターネットがどこまで人間に寄り添えるか、というところには非常に注目しています。そのような視点でも、「デクワス」シリーズの今後の進化から目が離せません。本日はどうもありがとうございました。

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株式会社サイジニア

【事業内容】
インターネットメディア事業
インターネット広告代理事業
コンピュータシステムにおける企画開発
インターネット、WEBにおける企画開発
情報システムに関する販売・保守
コンピュータサイエンス分野の研究開発
情報処理に関するコンサルティング及び管理


インタビューアー:椎葉 宏、執筆:坂田 昌代、撮影:北村 健

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