ユーザ行動を読み解く、デジタル時代の最新行動観察手法RET(Real-time Experience Tracking)
【ビービット様インタビュー】


ビービット様インタビュー

ユーザの視点を徹底的に追及した「ユーザ中心コンサルティングサービス」、効果測定ツール「ウェブアンテナ」の提供を行う株式会社ビービット。「オムニチャネル時代」と言われる今、ユーザのマルチデバイス利用行動を理解するために同社が調査手法として取り入れているRET(Real-time Experience Tracking)について、エグゼクティブマネージャの宮坂祐様(以下、敬称略)にお話をうかがった。

エスノグラフィーは、もう古い!

椎葉:御社では、「ユーザ中心」をキーワードに、ウェブサイトのコンサルティングを中心に事業展開をされてきていて、最近は、ウェブサイトだけでなく、スマートフォンやタブレットなど他のデバイスや、さらには、チャネルを横断したコンサルティングサービスの提供に注力されているとお聞きしました。

ビービット エグゼクティブマネージャ 宮坂 祐様
ビービット エグゼクティブマネージャ
宮坂 祐様

宮坂:はい。新しい施策を考えるときに、しばしばカスタマージャーニーマップが使われますが、ユーザが不満を抱いたり、離脱を招いたりしている、いわゆるペインポイントの抽出をするものが多いですよね。それをもとにチャネルごと個別に最適化、つまりウェブサイト単体を磨き上げるような作業ですが、そうしていると、結果的にモグラ叩きのようになってしまうことがあるんです。

椎葉:ユーザは様々なチャネルをまたいで行動するわけですから、その流れを理解したうえで、全体を俯瞰したコミュニケーション戦略を策定すべき、ということですよね。
 

ユーザを軸にメディア・デバイス横断で最適化
ユーザを軸にメディア・デバイス横断で最適化

宮坂:そうです。弊社では、ユーザの行動を理解するためのひとつの手法として、RET(Real- time Experience Tracking)を取り入れています。従来からユーザ行動観察の手法の一つにエスノグラフィーがありますが、RETはデジタル時代における、それの安価な代替品と言えます。

椎葉:エスノグラフィーは、いわゆる「つきまとい調査」ですよね。

宮坂:はい。RETは、ユーザにつきまとう代わりに、ユーザがいつも身につけているスマートフォンでリアルタイムに行動を報告してもらい、行動を分析するというものです。これは、エスノグラフィーよりローコストに、かつ詳細な情報を引き出せる可能性があります。

もともと弊社では、ラボでウェブユーザの行動観察調査をしていました。実際にウェブサイトを見たときの反応行動を観察し、その後にデプスインタビューを組み合わせることでわかることはたくさんあります。これはユーザのニーズが顕在化した行動を分析するのに有効です。

一方、ニーズが潜在的な場合はRETの方が有効です。たとえば、ユーザが寝る前に布団の中で暇つぶしにウェブサイトを見ている行動を、ユーザは再現しにくいですよね。RETではそれも可能になる場合があります。また、RETでは、調査期間を数週間に設定することで、中長期的にユーザのチャネル横断の実態を見られ、実際のユーザの日常に近いデータがとれます。

正確なユーザの行動から、打つべき手が見える

椎葉:具体的にはどのように進めるのでしょうか?

宮坂:ある保険会社の事例をお話ししましょう。まず、被験者となるユーザを収集しますが、保険加入の検討フェーズ、家族構成などでセグメントを切っておき、さらに保険に対する接触態度が異なるいくつかのグループを想定します。要件に合うユーザをスクリーニングして集め、テレビCMを多めに放送している期間に合わせて調査を開始します。

RETでは、ユーザに、保険に関するものに接触した際、接触したその瞬間にリアルタイムでTwitterなどのSNSで報告してもらいます。

この場合であれば、具体的には、

  • 保険に関する広告(テレビCM、交通広告、雑誌広告等)に接触したら、広告の写真と、できれば簡単な感想を報告
  • 保険に関して情報収集をしたら、調べた画面の写真やスクリーンショットを報告
  • 保険に関して誰か(家族、友人、保険相談窓口等)と話をしたら、話の要約を報告
  • 保険に関して資料を請求したら、何を請求したのか報告

などです。

寄せられた報告をグループ別、被験者別に仕分けながら、報告を見て気になったことは個別に電話で詳細をインタビューします。

椎葉:報告形式の細かい決まりはないんですね。イギリスのMESH社では「どのブランドに、どこで接触して(タッチポイント)、好感度や説得力はどうだったか」などを、決められたテンプレートで報告する形式がとられている、と拝見しました。

宮坂:はい。MESH社は定量調査を中心にしているようですが、弊社では定性調査に重きを置いています。週に1度程度は、こちらからアンケートを実施して定量的な数字もとるようにしていますが、基本的には定性に近い調査をすることで、日常においての保険との接触状況が手にとるようにわかります。

椎葉:具体的にはどんなことがわかりましたか?

宮坂:保険業界では、テレビCMの影響が依然大きいのですが、CMを見て保険加入の検討フェーズに入ったユーザの動きで顕著なのが、CMを見て間もないうちに、スマートフォンで保険に関して検索するということです。

椎葉:今、テレビとスマートフォンの距離はとても近いですよね。

宮坂:ただ、この段階でサイトを見ても、自分にはどんな保険が必要で、何を検討すればよいのかわからないので、ユーザはいったんサイトを見るのをやめてしまいます。次に、数日以内に保険に詳しい友人、または来店型保険代理店に話を聞きに行きます。話を聞いて、自分に必要な保険がなんとなくわかったところで、今度はスマートフォンではなくPCでサイトを見ます。そこで複数社の商品を比較しますが、選びきれません。最後にどうするかというと、資料請求をします。保険会社からすると、パンフレットを送ったら、あとは電話をして成約に導くだけだと思っていたのですが、実はユーザは、パンフレットで複数社を比較していたんです。

椎葉:ユーザの行動の傾向が手にとるようにわかるわけですね。

宮坂:そうです。行動の流れが見えてきたら、アクセスログを確認します。サイト内でのユーザの動きをデバイス別に分析すると、PCサイトもスマートフォンサイトも内容は同じですが、ユーザの動きが違います。どちらのサイトもトップページから商品種別を選択して進むのですが、PCでアクセスしたユーザはさして迷わず各商品に進む一方で、スマートフォンでアクセスしたユーザは商品一覧を見て、そこで離脱しています。RETで見えてきた行動傾向が、アクセスログにも表れているということです。結果的にわかるのは、使うデバイスによってユーザの目的が違うので、PCサイトとスマートフォンサイトは、別のものとして内容を考え直さなくてはいけない、ということです。

椎葉:レスポンシブデザインで満足していてはだめだということですね。

宮坂:1つの考え方ですが、スマートフォンはテレビCMからの受け皿と捉えて、ユーザに判断軸を与えてナーチャリングする役割、PCサイトは、比較検討モードに入ったユーザに、競合他社と比べていかに自社のほうがいいかを示唆する役割であると定義できます。チャネル横断で見たときの各チャネルの役割が明確にわかるので、改善点もおのずと浮き彫りになります。

目的によって様々に活用できるデータ

スペースシップ代表 椎葉 宏
スペースシップ代表 椎葉 宏

椎葉:お話をお聞きしていて、RETは、保険商品のように検討期間の長いもの、他には住宅や自動車など、そういうものの方がマッチしそうだと感じましたが、食品のような日常的に消費するものの場合も、同様に調査できますか?

宮坂:とあるメーカーで、すでにあったマルチチャネルの計画を前提に、それが本当に機能しているのか検証しました。テレビCM、ウェブ広告、交通広告などが、相互にどう作用していて、各チャネルのクリエイティブも含めて、ユーザの購買にどのように結びついていくのかをマッピングしました。やり方は多少違ってきますが、低価格高頻度な消費財でも活用できると考えています。

欲しい情報を確実に引き出す調査設計

椎葉:RETで収集した情報をもとにマッピングすると、とてもリアリティがありますよね。冒頭でもカスタマージャーニーマップのお話が出ましたが、「こういうふうになっているはず……」とか「こういうふうになったらいいなあ……」という企業側の予想や希望を表したマップになってしまっていることもありそうですよね。

宮坂:そうですね。ここからは調査設計の話になりますが、実はRETを実施する前に、仮説としてカスタマージャーニーマップのようなものを作っています。仮説を作り、論点を洗い出してから調査します。実際、この作業がないと、集まったデータを整理しきれないことがあります。被験者の報告にバイアスをかけるということではなくて、課題解決の糸口がつかめる情報が確実に寄せられるようにコントロールするということです。

仮説ベースのカスタマージャーニーマップと、RETで集まった情報が乖離している部分が、手を入れるべきところ、というわけです。次のマーケティング計画を立てていくうえで、かなりパワフルな説得力になります。

椎葉:なるほど。一貫したユーザ中心主義から発展してきた御社が、なぜRETという手法を重視されているのか、とてもよく理解できました。これからの展開も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

※参考
ユーザのマルチデバイス利用行動を理解する:
リアルタイム・エクスペリエンス・トラッキングとは?(前編)(後編

website
株式会社beBit

【事業内容】
デジタルマーケティング支援事業
■ユーザ中心コンサルティングサービス

  • ユーザ中心リサーチ(RET、ラボでの行動観察調査、デプスインタビュー等)
  • ウェブサイト戦略策定
  • ウェブサイトリニューアル-効果検証
  • 東アジアでのデジタルマーケティング支援 他

■ソフトウェアサービス

  • 広告効果測定ツール「ウェブアンテナ」の提供


インタビューアー:椎葉 宏、執筆:坂田 昌代、撮影:北村 健

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